PRESS RELEASE:
Lifetime observation of nonthermal processes in a photoexcited semiconductor
光励起された半導体の非熱的過程観測~超高速作動光メモリの原理解明に期待~

光励起された半導体の非熱的過程の寿命観測に成功
~超高速作動光メモリの原理解明に期待~

Advanced Functional Materials 2002821 (2020)
2020年6月6日 13:00 | プレスリリース・研究成果

【発表のポイント】
● 半導体への光レーザー照射後、“物質の温度”が定まるまでに必要な時間(寿命)を正確に測定する手法を開発
● 情報記録の要となる「Blu-ray等に用いられる光相変化材料※1の相変化」がどのように起こるかという未解明の現象を紐解くために重要な手法
● 新規高速作動光メモリの原理解明につながることが期待

【概要】
DVDやBlu-ray等の記録面に用いられている「光相変化材料」に、十兆分の一秒という超短光パルスを照射すると、一千億分の一秒程度という超短時間で結晶-アモルファス間の相変化が起こることが報告されており、この超高速作動が次世代光記録デバイスの作動原理になると期待されています。しかしこの超短時間の相変化がどのように起こるのかについては未解明であり、これを決定する新たな実験手法が望まれていました。

東北大学金属材料研究所の谷村洋助教、市坪哲教授らはレーザーを用いた超高速光学応答分光法を用い、光照射により物質が「非熱的」な状態にある極短時間の寿命を正確に測定することに成功しました。この成果により、光照射によって進行する超高速現象の研究および光相変化材料を用いた新規高速作動デバイスの原理の理解が一層加速するものと期待されます。
本成果は、「Advanced Functional Materials」へ6月5日(金)にオンライン掲載されました。

【詳細な説明】
○研究背景
物質は熱平衡状態にある場合、物質の「温度」を定めることが可能であり、般に、物質を格子系と電子系に分けて考える際には、格子温度と電子温度が一致しています。しかし、光照射は瞬時に物質中の電子にエネルギーを与えるため、一般に格子温度に比べて電子温度が高い「非熱的な状態」になります。非熱的な状態では、格子温度と電子温度が分離するため物質の温度を定義することはできません。物質の相転移の中には、非熱的な状態でのみ進行するものが見いだされており、物質の状態を制御する手段として、「光」の活用が注目を集めています。
例えば近年、DVDやBlu-rayディスクの記録面に用いられている「光相変化材料」に、約100フェムト秒(1フェムト秒は一千兆分の一秒)の時間幅をもつパルスレーザーを照射することにより、光相変化材料中の共鳴結合※2と呼ばれる特殊な電子秩序に起因して、数ピコ秒(1ピコ秒は一兆分の一秒)というオーダーの超短時間で結晶構造がアモルファス化することが見いだされています。この過程は従来商業用に利用されている相変化速度の十万倍程度高速であり、次世代の光記録デバイスの作動原理として期待されています。しかしながら、この過程の詳細な機構はまだ不明な点が多く、光照射特有の非熱的過程か、あるいは、超高速加熱によっても実現できる熱的過程かという基礎的な問題は未解明なままです。
本研究では、熱電材料として有名であり、また光相変化材料であるテルル化ゲルマニウム(GeTe)などと同様に共鳴結合をもつテルル化鉛(PbTe)を対象とし、フェムト秒レーザーを用いたポンプ・プローブ分光法を用いてこの問題への取組みを行いました。この手法ではレーザーパルスを2つに分離し、一方の光パルス(ポンプ光)で物質を光励起し、もう一方の光パルス(プローブ光)で光励起状態にある物質の反射率や透過率を測定します。光励起状態にある物質は、励起前と比較して反射率や透過率に過渡的な変化が観測され、その情報から、超短時間内に物質内で起こる電子的・原子的な変化を追跡することが可能です。通常、ポンプ光とプローブ光は同一の波長が用いられ、単一のエネルギーにおける物質の応答しか観測することができませんが、今回用いた手法では、プローブ光を非線形光学効果※3により白色光パルスへと変換して用いました。これにより、従来の手法よりも圧倒的に幅広いエネルギー領域における物質の応答を一挙に観測することが可能になりました。

○成果の内容
第一に試料の透過率の温度依存性を測定した結果、試料温度が高温になるにつれて可視光が透過しやすくなるという結果が得られました。一般に、結晶が共鳴結合状態にあると可視光は透過しにくいので、この結果は、温度上昇に伴って増大する原子振動により、共鳴結合が弱まる傾向にあることを示すものです。つまり、共鳴結合は「原子の規則的な配列」に依存し、原子の熱振動の増大によって弱まることを意味しています。この結果に基づき、ポンプ・プローブ分光測定で光励起後の透過率の時間変化を解析することにより、最終的に光照射によって非熱的な状態に励起された試料が、熱的な状態に緩和するまでの時間が約12psであることを直接決定することに成功しました。同一の解析手法を用いれば、長年未解決な問題であった、光相変化材料の超高速アモルファス化過程が、熱的な条件下で進行する過程か、非熱的な条件下で進行する過程かを決定することが可能になると期待されます。さらに、光励起の効果によって共鳴結合が崩壊すると同時に、特殊な原子振動が発生し、その振動が共鳴結合の再形成を阻害する、という機構が存在することが明らかになりました。

○意義・課題・展望
本研究成果により、光励起された物質が「熱的状態にあるか」、「非熱的状態にあるか」を光学的な手法によって区分することが可能であることが明らかになりました。この手法は、光相変化材料以外の系が示す光誘起超高速現象においても有効であると考えられ、これらの分野の研究の進展を一層加速させるものと考えられます。また、光相変化材料の示す超高速アモルファス化現象の機構についても知見が得られ、光相変化材料を用いた超高速作動が可能な次世代デバイスの開発を発展させるものと期待されます。

○発表論文
雑誌名:Advanced Functional Materials
英文タイトル:Nonthermal Dynamics of Dielectric Functions in a Resonantly Bonded Material Photoexcited
全著者:Hiroshi Tanimura, Shinji Watanabe, Tetsu Ichitsubo
DOI:10.1002/adfm.20202821

○専門用語解説(注釈や補足説明など)
※1光相変化材料
DVD等の記録面として用いられている材料。物質を構成する原子が規則的に配列している結晶相と、ランダムに配列しているアモルファス相の間で光学的特性が大きく異なるという特性をもっている。DVDやBlu-rayディスクでは、光照射による加熱効果によって両相間の制御(相変化)を行い、2つの相の光反射率の違いによってデジタル情報を記録している。
※2共鳴結合
ベンゼンなどにおいてみられる結合で、原子が周期的に配列した結晶相においてもある条件で形成される。例えば、アンチモンやテルル化ゲルマニウム,テルル化鉛などがその例である。光相変化材料の光学的特性は共鳴結合の有無によって大きく異なる。

※3非線形光学効果
物質に入射された光の強度が強い際にのみ生じる現象の総称で、入射光の波長の変換や白色光の発生など、多彩な現象が生じることが確認されている。

○共同研究機関および助成
本研究は、日本学術振興会科学研究費(17H06518、19K15283)、および東北大学学際科学フロンティア研究所からの助成を受けて行われました。

東北大, 東北大金研, 東北大学 学際科学フロンティア研究所, 
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