2020年11月24日,加藤雅治先生の訃報に接し,偉大な先生を70歳という若さで早くに亡くしたこと,本当に残念であり,悔しい思いで一杯です.人に気を配る優しさをお持ちで,腕相撲は強く,金属材料の研究者にしては非常にまれですが,ご専門の弾性力学はもちろんのこと,関連する数学にも卓越しておられ,本当に尊敬する先生でした.
加藤雅治先生は,私が初めてM2の時に書いたバージン論文のときの査読者であり,NIMSで講演会があったとき「あれはいい論文だったよ,介在物外回りの応力場の計算,難しいからね...」とお褒めいただいたことは恐悦至極でした.そして,その20年後,基盤Sのヒアリングのときの審査員長でした.ヒアリングが終わって1,2週間後でしたか,5月末あたりに本多記念賞祝賀会で加藤先生とお会いし,その際に,「もう聞いてる?ヒアリングのこと」とそれとなくお話しかけていただき,「なんか,いいことが起こると思うよ」と言ってくださったことが,今でも忘れられません.
マイクロメカニックスという培風館から出版された村 外志夫先生および森 勉先生のお二人が執筆された日本語の名著がありますが,加藤先生を共著として完成された理論があり,この本にあの二人の先生が載せてくれたんだ,と非常に喜んでお話しされていた加藤先生を昨日のことのように思い出します.
その論文とは,
Journal of the Mechanics and Physics of Solids, Volume 24, Issue 5, October 1976, Pages 305-318
The elastic field caused by a general ellipsoidal inclusion and the application to martensite formation †
Mura, T.; Mori, T.; Kato, M.
Abstract
THE ELASTIC field throughout an ellipsoidal inclusion in an indefinitely-extended anisotropic material is investigated when an eigenstrain (a stress-free transformation strain) is periodically distributed throughout the inclusion. This is an extention of the results obtained by J.D. Eshelby (1961) for uniform eigenstrains and by R.J. Asaro and D.M. Barnett (1975) for polynomial eigenstrains. The solution is applied to the evaluation of elastic strain energies of a disc-shaped martensite with alternating twins and of a spherical precipitate with a banded structure. The significant amount of the elastic strain energies explains the necessity of the supercooling of austenite steel for the martensitic transformation to occur.
この理論は,Periodic eigenstrain in an inclusionを取り扱った論文で,alternating twinsなどの応力問題を解くものです.
裳華房から出版されている入門転位論は,マイクロメカニクス愛好家の私としては,その路線で書かれた名著で私のバイブルです.基盤Sを採択してくださった先生の選考委員長の名誉にかけて,我々の研究を成功に導きたいと強い気持ちを抱く次第です.
加藤雅治先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます.