チタン合金において凍結された組成ゆらぎが引き起こす新たな相転移を見出し、その機構を解明 ―新たな相転移機構を利用した生体および構造材料開発に期待―
Physical Review Materials 3, 043604 (2019)
2019年4月17日 14:00 | プレスリリース・研究成果
【研究成果のポイント】
- 生体医療用材料および構造用材料として不可欠なチタン合金において、相転移温度以上である室温近傍で時々刻々と相転移が進行する「無拡散等温オメガ変態」という新しい相転移が存在することを実証し、その相転移機構を解明しました。
- さらに、チタン合金における「無拡散等温オメガ変態」は、熱平衡状態において実現される合金組成のゆらぎが低温で凍結されることによって形成された、数ナノメートルの局所的な不安定領域で引き起こされる特異な相転移であることを明らかにしました。
- 今後、新たな相転移機構を利用したナノ組織制御法を確立することによって、高強度や低弾性率等を有する生体医療用および構造材料用のチタン合金の開発が期待されます。
【概要】
大阪大学産業科学研究所の多根正和准教授、関野徹教授らの研究グループは、同大学院工学研究科の中野貴由教授、東北大学金属材料研究所の市坪哲教授、永井康介教授、岡本範彦准教授、井上耕治准教授らと共同で、生体医療用材料および構造用材料として不可欠なチタン合金において、室温近傍で時々刻々と相転移※1が進行する「無拡散等温オメガ変態」という新しい相転移が存在することを実証し、その相転移機構を世界で初めて明らかにしました。
さらに、チタン合金における「無拡散等温オメガ変態」は、熱平衡状態においても避けることができない合金組成のゆらぎが凍結されることによって形成された、数ナノメートルの局所的な不安定領域で引き起こされる特異な相転移であることを明らかにしました。そのため、平均的な合金組成によって決まる巨視的な相安定性や相転移温度を主に取り扱うこれまでの相転移論によって、無拡散等温オメガ変態の相転移挙動を説明することはできません。
無拡散等温オメガ変態は数ナノメートルのオメガ相を合金中に微細均質に形成させることから、今後、これを利用したナノ組織制御法を確立することによって、高強度や低弾性率等を有する生体医療用および構造材料用のチタン合金の開発が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Physical Review Materials」(オンライン)に、4月16日(火)に公開されました。
【用語説明】
※1. 相転移:温度や圧力などの変数の変化によって物質が異なる相に移る現象。