エネルギー環境問題について

この問題を取り組むにあたり,太陽光還元,これが重要な概念になってくると考えています.

エネルギー環境問題の解決に向けた太陽光還元の利用の重要性(動画)

太陽光入熱および宇宙空間への放熱のつり合いで定常的な地球表面温度(約300K程度)状態が実現し,そのような地球上の温度および酸素雰囲気で熱力学平衡状態が実現するならば,おおよそのエネルギー源となる物質は酸化した状態で存在するか,あるいは酸化する方向に向かいます.皆さん中には「酸化していない化石燃料があるじゃないか?」と思う方もおられるでしょう.まさにその通りで,化石燃料というのは酸化されずに地下埋蔵された「天の恵み」のエネルギー源であり,これを酸化させて動力・電力を得ることにより産業が発展し,人類は便利な社会経済を得ることに成功しました.しかし,化石燃料を酸化させ続けることによりそれらは枯渇し,温室効果ガスであるCO2は増加して温暖化が進み,白色凍土が融けて日光の反射率が下がり,同時にメタンガス(CO2の20倍以上の温室効果)が発生し,温暖化で水分量が減じた森林が火災で焼失し,そしてますますCO2やメタンガスが発生し,そして更に温暖化が進む,というまさにポジティブフィードバックがかかり,このままでは地球環境は崩壊します.これがエネルギー環境問題(の一部)です.

ここでエネルギー源と言っているものは,核変換物質を除き,おおよそ酸化して熱を出す物質のことを指します.熱を出して動力を得て電磁気的に電気エネルギーに変換する,火力発電ではこの仕組みを使うわけです.一方,酸化に伴う自由エネルギー変化を駆動力とし,もう片方で還元を起こす反応を随伴させ,熱としてではなく直接的に外部回路に取り出す仕組みがありますが,それがいわゆる「電池」といわれるものです.その中で水素を酸素と結び付けて水にする,つまり水素の酸化反応を電気エネルギーとして取り出すものが燃料電池であり,リチウム金属を空気中の酸素と反応させる際に電気エネルギーとして取り出すデバイスをリチウム空気電池と呼んでいます.よくご存知の通り,水素は水素ガスとして地球上に存在しておらず,水素は主に酸化した状態,すなわち水,という状態で存在し,リチウムイオン電池で有名なリチウム,これはリチウムメタル状態としては地球上ではほぼ存在せず,おおよそ酸化リチウムや炭酸リチウムなどの酸化した状態で存在し,同様にマグネシウムは通常酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムなどの酸化した状態で地球上に存在します.人間が呼吸をすれば,CH系は二酸化炭素や水として吐き出されます.このように,通常,エネルギー源といわれるものは酸化した(する)状態で存在しているので,それをエネルギー源として利用しようとした場合,何らかの方法で「還元」してやる必要があります.それゆえ,簡単に水素社会を目指すと言っても,水素を火力発電所で作った電気を使って水電解生成していては,カーボンニュートラルおよびサステナブルという点では意味がありません.

太陽光はどのような枠割を果たすのか?ということですが,結局,何もしなければ熱力学的に酸化された状態に向かっている地球に対し,唯一作用しているのが太陽です.太陽は,光・電磁波としてエネルギーを地球に与え続けているわけです.この電磁波のエネルギーは,電子を励起できる能力をもっているし,また格子・分子振動を活発化させる(つまり温度を上昇させる)能力をもっています.その二つの例は既に我々は身近で使っていて,例えば前者の場合には,森林の光合成(天の恵み)によるCO2やH2OからCH系への還元そして同時にO2の分離,そして後者の場合には,熱により発生した水蒸気が雲を作り雨を降らし水力発電という形で(風力も空気の密度差ですので熱が生みます)利用できるわけです.さて,温度が上がると酸化物などはどのようになるのでしょうか? 熱力学第二法則により,エントロピーという概念が重要になりますが,高温ではエントロピーが高い状態が実現されやすくなります.つまり,温度を上げると,酸化されていたエネルギー源となる物質は酸素ガスを放出しエントロピーを高める方向,つまり還元される方向(酸化物イオンの立場から言えば電子を奪われるので酸化する方向)に行くということです.このように,太陽光というのは,酸化されて安定化した状態にある物質を「還元してエネルギー源となる物質に戻す能力」をもっていると言えます.太陽電池は半導体を使いますが,この半導体の電子やホールが励起されることにより電気が生み出され,そしてそのまま電気として使ってもよいし,エネルギー源として水素を貯蓄したいなら水電解(水の還元分解,対極では酸化分解)に使ってもよいわけです.キャリアの励起というのが直接還元(勿論,酸化物イオンの立場から見れば酸化)に結びついていると考えにくいかもしれませんが,キャリアが励起されるということは温度を上昇させた時と似たような効果を生みます.このように考えると,結局,太陽光というのは,「我々の身の周りで酸化して終状態に向かっている物質を,再び還元してエネルギー源として利用できる状態にする」役割を果たたすものとして期待されます.

この太陽光は,これから50億年もまだ余命があると言われていますので,ある意味,無尽蔵のエネルギーです.これをいかに利用するか,,,これが我々研究者に課された課題だと考えています.